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2019/01/23

【詩】 招待状 ―『運命 文在寅自伝』「日本語版への序文」によせて

                                                                          稲荷明古


近くて遠いあの国から
心が震えるほど美しく熱い「招待状」が届いていました

それは
人間の本当の解放を実現するための平らかな世界にむけて ともに旅立とう
という呼びかけの手紙

そうだ
海はふたつの国を隔てているが
海上には両国の先人たちが 古代からつないできた道があったのだ

「私たちの祖先が荒波を渡って相手のもとへと向かうことを可能にしたのは、友情と歓待の力でした」
「私たちはやがて真の友人となるでしょう」
とあなたは書き送って下さったのですね

すべてを奪い
知らんふりのまま一世紀を超える時を垂れ流し
むしろいいことをしてやったのにと開き直る私たちの国にさえ あなた方はこのように呼びかけて下さるというのですか

軍国主義と植民地支配により 先人たちが行き来したその道を埋めて
あなた方の故郷のなにもかもを奪い尽くした私の国に・・・・・・

憎しみも恨みも超えようとする強い愛の心に圧倒され 言葉もなく
しかし
なんとか応え生きたいと 胸の奥から琴の音色が響きます



歴史の末尾を歩む自分の足元には
いつも膨大な人生と未だ朽ち果てぬ魂があることを想わねばなりません

自国の在り方や辿ってきた道程の中 愚かな過ちを繰り返し
星の数ほどの人がただ一度の人生を奪われ 己より大切な家族と友人を奪われる苦難を強いられたことを・・・

この国での幸福に少しでも預かっている者たちは 私も含め絶えずそのことを想わなければ 誰がその歴史を教訓と出来るでしょうか

今を享受し 生きる者として どういう態度をとるのかが問われるのは至極当たり前のことであるはずなのに
「仕方がなかった」という言い逃れは あまりにも人のあたたかさからは遠いもの

「責任」
「反省」
「謝罪」
「誠実」・・・
そうした言葉の意味自体も 目の前で喪われゆくこの国で
情けなさと恥ずかしさに埋もれて窒息しそうな 私を掘り起こし
息が吸える青空の下に引き出していくあなたの手紙

この「招待状」を
一人でも多くの仲間と共に受け
あなたたちとの旅に出る決意を確認し
そして
今 心して 始めの一歩を踏み出でましょう

済州(チェジュ)出身のあの詩人がこの国の言葉に訳してくださった「序詞」を呟きながら








(2018年11月9日 記)

文在寅(ムン・ジェイン) 『運命 -文在寅自伝』 矢野百合子/訳 2018年10月 岩波書店




尹東柱 『空と風と星と詩』から「序詩」 (1941年11月20日)
 金時鐘  翻訳(2012年 岩波文庫)

死ぬ日まで天を仰ぎ
  一点の恥じ入ることもないことを、
 葉あいにおきる風にさえ
 私は思い煩(わずら)った
 星を歌う心で
 すべての絶え入るものをいとおしまねば
 そして私に与えられた道を
 歩いていかねば。

 今夜も星が 風にかすれて泣いている。