2017/08/15

10年前に作った詩

八月を想フ ‐緑色の服を着たおばあさんへ


もういろんなことを忘れてしまったおばあさん。

一筋の記憶を受けたのか 突然、つつと語りだした。

   私は竹やりの訓練をさせられたの
   東京の品川で
   アメリカ人の捕虜を本当に連れてきてね、竹やりでつつく練習をさせられた
 
   敵だと言ったって、同じ人間じゃないの
   そんな酷いこと・・・
   とっても私はできなくてね、
   つつく真似をしたら、捕虜がこっちを「いいのか?」というように
   顔をみてうなずいてね。
   私がうなずいて、「いいから早くあっちへいけ」って顔で示したら
   痛がる真似をしてあっちに行ったんだよ

   でも本当につついている女の子もいたよ
   どうしてあんなことできたんだろうね
   戦争なんて酷いもんだよ

   学徒動員っていうものあってね
   流れ作業
   私はぐずだから、私のところで仕事が溜まるんだ
   そしたら憲兵さんが怒って叩くんだよ
   ピシーッピシーッってね、鞭で
 
   でも、今から考えたらどうしてあんなことしなきゃならなかったんだろうか
   本当に戦争に勝てると思ってたのかしら
   ねぇ?

   あのころは朝も昼も夜も関係なく
   B29が飛んできたよ
 
   となりのお兄さんが兵隊さんになる前に
   「うちの上で飛行機の翼をこう振るから見てなよ」と言ってね
   見ていたら本当にやったんだ
   こう、翼をね

   その人は、それからもう帰ってこなかった
 
   戦争って本当にしなくちゃいけなかったんだろうかね
   
   ね

 

おばあさん。
おばあさん。

これは全てを忘れても、残された記憶なのですね

60年たって、ほとんどの出来事を忘れてしまって
生活の動作すら空に溶けてしまった

なのに
あなたはその問いを捨てられない
その問いから逃れることはできなかった


あなたが23歳の娘だったときに、先の大戦は終わりました

60余年の年月がながれ
24歳の私は
ある場所で偶然に、白髪のあなたと出会いました


終始モグモグしていた口から、突如はっきりと紡がれた言葉たち


それは、あなたの人生で最も過酷な、
そして思い出深い体験だったのですね

そのことを語ったことも、覚えていたこともあなたは知らない

でも、私はその記憶を忘れないように努めます

あなたの問いから未来を選びだせるように

どうかいつまでもお元気で居てくださいますように
 そうお祈りしています
 














(2007 0510)